男のコラム

毎週火曜日更新

このコラムは、タケタリーノ山口が己の魂の叫びを2003年に書いていたものです

第36回

俺はリンガーハットの長崎ちゃんぽんが好きだ。
あのシコシコの太麺、そしてたっぷり煮込んだ大盛り野菜。
もう、くやしいぐらい好きだ。
実際、若い頃の俺は、本当にしょっちゅう食ってた。
その当時、俺があまりにも長崎ちゃんぽんが好きだった為、友達の間では「ちゃんぽん=山口」
という構図ができあがり、俺は「長崎山口」
と呼ばれていた。
略して「長崎」。
そう、俺は「長崎」と呼ばれていた。
しかし、東京に出て来てみると、予想外にリンガーハットを見かける事がなくなり、俺は次第に長崎ちゃんぽん離れをしていた。
俺自身も、「長崎」と呼ばれる事もなくなり、俺は自分が「長崎」である事を忘れ始めていた。
そんな時、俺は自分自身の「長崎」を取り戻す為に、何かを変えなくてはいけないと、ある決心をした。
どんなに腹が減ってなくても、どんなに時間がなくても、町でリンガーハットを見かけたら、必ず長崎ちゃんぽんを食べると。
それが、俺が「長崎」である為の義務だと。
それが、俺が「長崎」である為の証だと。
しかし、そうは決めても、俺の行動範囲内にリンガーハットが現れる事は、そうそうなかった。
浅草、四ツ谷、西船橋、現れるのは、その程度だった。
ところが、今まで俺が気がつかなかったのか、新しくオープンしたのか、俺の行動範囲内のど真ん中、渋谷と新宿にリンガーハットを発見したのだ。
俺は食った。
ガムシャラに食った。
自分が「長崎」である為に。
自分がもう一度「長崎」と呼ばれる日の為に。
来る日も、来る日も。
あの大好きだった長崎ちゃんぽんが、まずく感じる程。
そう、まずく感じちゃった。
完全に飽きちゃった。
そして思った。
俺、「長崎」じゃねーし。
今さら「長崎」とは誰も呼ばねーし。
そう、俺は「山口」だった。
まぎれもなく「山口」だった。
単純な「山口」だった。
くだらねぇ。
実にくだらねぇ、くだらねぇ。