男のコラム

毎週火曜日更新

このコラムは、タケタリーノ山口が己の魂の叫びを2003年に書いていたものです

第26回

俺は、よく顔が恐いと言われる。
近頃では、顔面凶器とまで言われ始めた。
しかし、俺に言わせると、そんなのは甘い。
洗顔した後の顔なんて、何よりもツッパっている。
パサパサだ。まさにツッパリだ。
鏡の中の俺の顔は、恐いというか強張っている。
そう、俺は乾燥肌だ。
行きつけの皮膚科の先生いわく、
「油っこいくせに乾燥肌ですね」だ。
「ケントデリカットな肌です。いや、ホントデリケートな肌です」だ。
そんな俺だから、冬になると特に口唇が荒れる。
触れただけでも、今にも切れてしまいそうだ。
まるでお袋のかかと並みだ。
できる事なら、口唇に靴下をはかせてやりたい。
暖かい毛糸の靴下を。
しかし、今はリップクリームというものがある。
俺は、自分の中でリップクリームの事をやさしさの塊と呼んでいる。
口唇が荒くれ者の俺にとって、やさしさの塊は必需品であり、上着のポケット、かばん、ベットの横と、3本のやさしさの塊を、それぞれの状況に応じて使っている。
そして、いつの間にか、どのやさしさの塊を使い切るのが1番早いのか競争させていた。
横一列に並べて高さを測り、減り具合をチェックして、早く小さくなれ、早く小さくなれと、小さくする事で喜びを感じている俺がいた。
ところが、そんな俺に、ある感情が芽生えてきた。
ベットの横のやさしさの塊に、1位になってほしい。
1番早く使い切ってやりたい。
その日から俺は変わった。
自分に都合のいい理由をつけて、他のやさしさの塊には見向きもせずに、かたくなにベットの横のやさしさの塊だけを塗り続けた。
ルール無視だ。八百長だ。分かっている。全て分かっている。目をつぶってくれ。俺はベットの横のやさしさの塊がかわいくて仕方なくなっていた。
しかし、やさしさの塊はそう簡単に小さくならない。
焦る。気持ちばかりが焦る。
絶対に、この子を1位にしてやりたいんだ。
折った。折ってやった。
俺はベットの横のやさしさの塊を折って1位にした。