男のコラム

毎週火曜日更新

このコラムは、タケタリーノ山口が己の魂の叫びを2003年に書いていたものです

第39回

これは、俺が高校生の頃の話だ。
俺は今でこそ「燃える男」とか「魂の塊」とか「炎のオブジェ」などと言われ、「熱い男=タケタリーノ山口」というイメージが浸透しているが、その当時の俺は、何をするにも、熱くもなく、冷めてもなく、常に一定の体温を保っているように見えるということで、「平熱」と呼ばれていた。
およそ、36.2℃ぐらいの感覚だったのだろう。
いたって普通の状態だ。
しかし、周囲の人間からは「平熱」と呼ばれ、普通の状態に見えていても、俺なりに必死になってもがいている時期だった。
そう、実は俺は死に物狂いで生きていたのだ。
では、なぜ周囲の人間は、死に物狂いで生きていた俺を「平熱」などと呼んでいたのか?
そう、なぜなら、当時の俺は、人に必死な姿を見せることが格好悪いことだと考えていたのだ。
だから俺は、いつも淡々と、あえて淡々と、涙そうそうと「平熱」の状態を作り出していたのだ。
今思えば、俺は必死になって生きていたのではなく、この「平熱」という状態を作り出すことに必死になっていたのかもしれない。
そんなある日、クラス対抗のマラソン大会があった。
この大会は、20kmのコースを各クラスの代表5人が走り、その5人の合計タイムが一番早かったクラスの勝ちという大会だった。
俺は何があっても普通の状態でマイペースに走り続けるだろうという事で推薦され、代表として走る事になった。
そして、運命の時が来た。
パーンというスタートのピストル音と共に一斉に飛び出す各クラスの代表。
普通の状態でマイペースな俺。
汗を飛び散らせて走る各クラスの代表。
普通の状態でマイペースな俺。
嗚咽のような声をあげながら走る各クラスの代表。
普通の状態でマイペースな俺。
そして、何と、恐るべき数値がはじき出された。
3km、6km、9km、12kmと3km間隔で計測されるタイムがほとんど同じな俺。
あまりにも同じリズムで一定の速度を保ちながら走る俺に、観戦していたクラスメートから声が上がった。
「メトロノームだ」
「メトロノーム走行だ」
俺はリズムを一定に保ち続ける。
沸き上がるクラスメート達。
寸分の狂いもない。
しかし、忘れないでほしい。
俺は必死で生きていたのだ。
必死な姿を人に見せるのが格好悪いことだと思っていたから必死で「平熱」の状態を作り出していたが、俺は必死で走っていたのだ。
今思えば、同じペースで走り続けることに必死だったのかもしれないが、とにかく必死で走っていたのだ。
その俺に対して、「メトロノーム」って!!
俺に怒りが芽生えた。
そう、俺は熱くなった。
俺はとにかく熱くなった。
周囲の人間からすると、熱が出た感じだ。
「平熱」から熱が出た感じだ。
しかも、高熱だった。
ある意味、ひどい病気だった。
その時から現在まで、俺は何故かずっと風邪気味だ。