男のコラム

毎週火曜日更新

このコラムは、タケタリーノ山口が己の魂の叫びを2003年に書いていたものです

第32回

先日、俺はちょっと小腹が空いたと思い、家から数メートル離れたコンビニで、適当な気持ちでメンチカツパンを選び、レジに持って行った。
その日は、かなり寒かった為、温かい食い物だったら何でもよかった。
肉まんでもピザまんでもおでんでも。
ただ、何となくメンチカツパンを手にしただけだった。
レジには20才位の男の店員がいた。
その店員は、今時の若い男がかもしだす、やる気があるんだかないんだか分からないメリハリのない雰囲気をプンプンさらけ出していた。
「130円です」
と仕事上当然の言葉を口にする事さえ抵抗があるかのように重々しく言葉を絞り出し、メンチカツパンをビニール袋に入れようとした。
俺はパンを温めますか?ぐらい聞けよと思いながらも、丁重な口調で
「あ、温めてもらえますか?」
と言って、メンチカツパンを当初の目的である温かい食い物に変身させようとした。
すると、その店員は、今起きましたみたいな顔をして、ものすごい驚いた言い方で、
「えっ、パンをですか?」
と返答、いや変答してきた。
その瞬間、店内にはピーンと張りつめた様な空気が流れた。
いや、もしかしたら俺が漂わせたのかもしれない。
「えっ、パンをですか?」
この言葉の奥に隠されたその店員の心情があきらかに、パンを温めるなんてお前は何を考えてるんだ?
いや、パンを温めて食う奴がこの世に存在するなんてありえない。オー、ジーザス。だった。
俺は心の中で自問自答を繰り返した。
パンを温めて何がいけないんだ。
パンを温めて何がいけないんだ。
すると、俺の後ろに並んでいたお客さん達も、にわかにドヨドヨしだした。
パンを温めるのが何がいけないんだ。
パンを温めるのが何がいけないんだ。
俺は感じた。
その場の空気を感じ取った。
店内には声にならない心の声が地鳴りの様にうねりをあげ、一斉に店員に降りかかっていた。
言葉を返すなら今だ。
「えっ、パンをですか?」
という変答に対しての返答。
「そうです」だ。
俺は心の中で何度も確認した。
「そうです」「そうです」「そうです」
そして、ついに意を決して声に出した。
「うそです」
間違えちゃった。
俺、間違えちゃった。
後ろに並んでいるお客さんは、動きこそ変化はないがズッコケていた。
俺の頭の上に大きなタライが落ちてきても何ら不思議ではなかった。
店員は「うそです」という返答に、やたらと納得した表情で、メンチカツパンをビニール袋に入れて俺に手渡した。
俺は素直に、メンチカツパンの入ったビニール袋とともに、うそつきという称号を受け取り、コンビニを後にした。