男のコラム

毎週火曜日更新

このコラムは、タケタリーノ山口が己の魂の叫びを2003年に書いていたものです

第27回

これは、俺が田舎のスナックでボーイをしていた頃の話だ。
そのスナックは午前一時で一度店を閉め、お客さんも女の子も帰った後、男の従業員だけでもう一度店を開け、ショットバーという形で朝まで営業していた。
その田舎町では、よくある形式で、仕事帰りのスナックの女の子や、スナックが終わり、行くあてのなくなったサラリーマンなどが主なお客さんだった。
ただ、あまり繁盛してるとはいえず、お客さんが来ない日もあった。
その日はいつになく静かで、午前四時を過ぎると、お客さんもいなくなり、店の中は、俺ともう一人の従業員だけになった。
「そろそろ店閉めようか」
などと、まどろんだ会話をしていると、入り口のドアが申し訳なさそうにゆっくりと開き、40才位の気の弱そうな小柄な男が背中を丸め、まるで土下座でもするかの様に入って来た。
「いらっしゃいませ?」
俺はその男のあまりにも腰の低い来店態度に、お客さんですか?と質問する様な言い方でいらっしゃいませを言葉にした。
「まだ、いいかな」
小柄な男は手を合わせ、もみ手をしながらクシャッとした笑顔を創り、俺達の顔を交互に眺めた。
俺達は、その小柄な男がお客さんである事が分かり、
「もちろん」
と、カウンター席を案内した。
次週につづく