男のコラム

毎週火曜日更新

このコラムは、タケタリーノ山口が己の魂の叫びを2003年に書いていたものです

第18回

家の風呂場を開けたら、アリの大行列ができていた。
軽く200ぴきを超える行進が始まっていた。
どこから入って来たのかと見てみると、窓の下に小さな穴が掘られていた。
いつの間に・・・。
一体、こいつらはどこに向かっているのかと、その大行列の先頭に目をやると、明らかにしてやったりの顔のアリが何かを見付けようと先を急いでいた。
こいつの仕業だ・・・・・。
俺はすかさずそのアリを踏み潰そうとした。
しかし・・・・・よく見ると、そのアリの顔は、してやったり顔なんかではなく、真剣そのもの顔だった。
目には生きる力が宿っていた。
俺はしばらく、そのアリの行動に目を奪われた。
そのアリは必死にさまよっていた。
そのアリは後ろに並んでいるアリたちの期待を一身に受けているのだろう。
その期待に応えようと、何かを求め一心不乱に自分の役割を果たそうとしている。
何も見付けられなかった時の絶望感は凄いのだろう。
踏みしめる一歩一歩にプレッシャーを感じているのだろう。
自分を信じる心が折れそうになる事もあるのだろう。
俺はいつしかそのアリを応援していた。
がんばれぇ。
負けるなぁ。
何かを掴めぇ。
前へ。前へ。逃げるな。決して逃げるな。
お前がやれ。お前が決めろ。お前がどう動くかだ。
そうだ。お前だ。お前が舵を取れ。
俺はいつの間にか長渕口調になっていた。
その時、ハッとした。
長渕は、俺がこのアリを見るように、俺たちを見ていたのか・・・・。
俺はいてもたってもいられず、裸のまま風呂場を飛び出し、大ファンである長淵のアルバムをアリの大行列の前方に置いた。
数分後、先頭のアリは、長渕の顔がアップで写っているアルバムの上を、まるっきり無関心になにくわぬ顔して通り抜けた。
この瞬間、俺とアリ、そして長渕の間に、1つの法則が出来上がった。
俺は長淵を尊敬している。勝てない。
アリは長淵など眼中にない。勝っている。
そして俺は、アリなど簡単に踏み潰せる。勝てる。
そう、まさしくジャンケンの法則。この結果、俺はとりあえず、アリを殺した。